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当院の呼吸器外科は平成24年に独立した科として新しいスタートを切りました。
当科は、下記の基本原則を堅持して皆様の診療に携わってゆきたいと考えています。
さいたま市立病院・呼吸器外科では、胸壁、肺、縦隔の外科治療のすべてに対応しています。今日の呼吸器外科の手術は傷を小さくして手術からの回復を早くする低侵襲外科治療が進み、安全に手術を受けていただけるようになりました。
当院では呼吸器外科専門医かつ指導医2名および呼吸器外科専門医1名、合計3名で呼吸器内科、麻酔科、放射線科、理学療法科、内視鏡室などと連携して1年を通じて休みなく診療に従事しています。
呼吸器外科が治療を行う疾患には、肺がん、肺の炎症性疾患、縦隔疾患、気管気管支の疾患、横隔膜の疾患、胸壁の疾患などが含まれます。これらの疾患への対応について簡単にご紹介します。
肺がんを治癒に結び付けるために外科的な治療は欠かせません。そして、多くの患者さんの治療には外科だけでなく、内科、放射線科、麻酔科、内視鏡科、緩和ケア科、看護部、ソーシャルワーカーなど多くの人たちの協力があって満足な治療を進めることができます。当院は地域がん診療連携拠点病院として厚生労働省より指定を受け、高い水準でのがん治療を提供できる体制をとっています。
肺がんと聞くと、この先自分はどのようになってしまうのだろうという漠然とした不安が強いと思います。よい治療結果を得るには患者さん一人一人の状況をよく見極めて、速やかに治療を行う必要があります。不安なことや、相談なさりたいことがあれば、主治医だけでなく、上記の部門で相談を受け付けています。
肺癌を治療してゆくには、現在どういう状況にあるのか、すなわち正確な診断が何より大事です。正確な診断を行うために当科では胸部ヘリカルCTによる病巣の把握を迅速に行い、気管支鏡、超音波気管支鏡、PETなどの検査を用いています。必要であれば、全身麻酔下(あるいは局所麻酔下)の胸膜生検などを行います。
正確な診断に基づいた正確な病期(病気の広がり具合)を判断し、患者さんの全身状態、体力を考慮して一番良い治療法を選択します。当院では肺癌学会が策定した診療ガイドラインに即した治療を行っています。患者さんごとに最もふさわしいと考えられる治療法を提案させていただいたうえで治療法を決定しています。
外科治療、気管支内治療に関しては呼吸器外科で対応いたします。
肺癌の手術は肺葉切除+縦隔リンパ節郭清を基本とし、患者さんの状態に応じて縮小手術、拡大手術を選択しています。
手術法は低侵襲(患者さんの負担にならない)手術を心がけており、主として胸腔鏡下手術を行って術後の回復が早くなるように努力しています。 ロボット支援手術を2019年8月より開始いたしました。
肺はいろいろながんの転移先となります。がんが全身に転移すると抗がん剤による治療を行うことが多いのですが、原発巣での再発がなく、転移が肺だけで、肺転移巣の数が限られていて、十分な肺機能がある場合は転移巣を切除することによって予後を改善できる場合があります。当科では積極的に外科治療を行っています。
肺は胸腔の中で胸膜に包まれて伸びたり縮んだりしています。胸膜が薄くなり、穴が開くと肺から空気が漏れて気胸という状態になります。また、胸膜の炎症やがん細胞の影響で胸水が増えたり、乳び胸水が貯留したりすることがあります。また、アスベストという建築用資材に暴露されることで中皮腫という胸膜の腫瘍を起こすことが知られています。呼吸器外科ではこのような状態に対して診断から治療まで総合的に対処できる体制を整えています。
気胸は若年者に多く発症する良性の疾患で、胸膜が薄くなって穴があき、肺から空気が漏れるために肺が縮んでしまう病気です。保存的治療で治療効果が望めないときや入院期間が長くなる場合は外科的に治療を行います。全身麻酔下に穴の開いた部分を修復します。術後約3日で退院できるようになります。
難治性気胸に対する外科治療:気胸の中でも肺気腫や間質性肺炎に続発する気胸は難治性で再発を繰り返す傾向があります。このような特殊病態にも対応しています。
肺の炎症性疾患の中には多剤耐性の肺結核や、非結核性抗酸菌症、肺肉芽腫症、肺真菌症、膿胸など、内科的治療に限界があり、根治のために外科治療を選択する場合があります。当病院ではこのような炎症性疾患患者の治療にも対応できる設備とスタッフをそろえています。このような疾患の治療には長い入院を要する場合もあります。
縦隔にはまれに腫瘍が発生します。縦隔腫瘍は良性の腫瘍が多いのですが、徐々に増大し、心臓や大血管、気管などを圧迫して機能的に問題となる場合があるため、見つけたら切除を行うのが基本です。また、胸腺腫という腫瘍は重症筋無力症を合併することがあり、また、悪性腫瘍と同じ成長を示す場合が多いので切除を行います。
手術は胸腔鏡で行う場合と胸骨正中切開によって切除する場合があります。
気管は空気を口から肺へ導く直径17mm程度のチューブ状の器官です。この部位に腫瘍や狭窄が生じると、程度によっては窒息に直結する重篤な事態となります。当科では、このような緊急事態にも対応できる準備を整えています。
横隔膜は腹腔と胸腔を分ける薄い筋肉の隔壁ですが、横隔膜の異常によって動きが悪くなったり、気胸を起こしたり、胸水がたまったりする疾患があります。このような疾患に対しては横隔膜を修復することで治療が可能です。
交通事故などの大きな外傷や心肺蘇生後に胸壁動揺という呼吸がしにくくなる病態が発生することがあります。通常は人工呼吸器によって治療することが多いのですが、人工呼吸器装着期間を減少させ、回復を早めるために、肋骨固定術あるいは胸壁固定術を行う場合があります。
胸壁の腫瘍に対しては、切除、再建を行います。胸壁の再建にあたっては、胸郭の剛性を保つために種々の補填物を使用します。
漏斗胸に対してはステンレスの板を胸骨下に挿入して変形を強制したのちに2~3年後に抜去するナス法を採用すべく準備を進めております。
肺癌は治療によっても再発を起こすことが多い疾患です。再発した肺癌をどのように治療するかについては日々治療法が進歩しています。
肺癌の治療法は外科治療、放射線治療、抗がん剤治療、免疫治療などがあげられます。肺癌、特に再発肺癌を克服するためにはこれらの治療法を組み合わせて最大の効果を引き出す集学的治療を行う必要があります。外科治療はこの集学的治療の大きな柱を構成しています。
当科ではこのような再発症例に対してもいろいろな治療法を提供しています。
再発症例でも再発巣が限られていれば、外科治療によって切除し、予後の改善を図っています。
再発巣の状況に応じて放射線科、脳神経外科などと連携を保ちつつ放射線治療を行います。
再発肺癌に対する化学療法も当科で行っています。
再発肺癌に対する免疫チェックポイント阻害剤を用いた腫瘍は症例に応じて腫瘍内科あるいは当科で治療を行います。
緩和医療は当院の緩和ケアチームと連携し、患者様の疼痛や不安を取り除くよう治療を行います。また、その他の治療法(凍結融解療法、集光照射療法、重粒子線治療、免疫治療など)についても施設紹介などで対応いたしますのでご相談ください。
当科ではセカンドオピニオンに対応しております。患者さんのお考えをもとに信頼できる外部の施設にセカンドオピニオンをお願いすることもありますし、他施設からセカンドオピニオンの依頼をお受けして当院の意見を述べさせていただく場合もございます。
氏名 | 役職 | 資格 |
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米谷 文雄 | 部長 |
日本外科学会認定外科専門医 日本胸部外科学会認定医 日本呼吸器外科学会認定指導医 呼吸器外科専門医(呼吸器外科専門医合同委員会)日本呼吸器内視鏡学会認定気管支鏡専門医 日本がん治療認定医機構暫定教育医 |
松田 康平 | 医長 |
日本外科学会認定外科専門医 呼吸器外科専門医(呼吸器外科専門医合同委員会) |
堀之内 宏久 | 非常勤 |
日本外科学会認定外科専門医 日本胸部外科学会認定医、指導医 日本呼吸器外科学会認定指導医呼吸器外科専門医(呼吸器外科専門医合同委員会) 日本呼吸器内視鏡学会認定気管支鏡専門医、指導医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医、暫定教育医 日本医師会認定産業医 |
呼吸器外科の最近4年間の診療実績を下に示します。
2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | |
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原発性肺癌 | 67 | 60 | 70 | 71 |
転移性肺腫瘍 | 11 | 13 | 8 | 11 |
気胸 | 41 | 45 | 50 | 50 |
縦隔腫瘍 | 6 | 9 | 19 | 11 |
膿胸 | 18 | 11 | 10 | 10 |
炎症性肺疾患 | 不明 | 13 | 5 | 3 |
合計 | 165 | 155 | 177 | 179 |
そのうち鏡視下手術 | 127 | 138 | 154 | 166 |