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更新日付:2025年1月8日 / ページ番号:C118357

第48回特別展「さいたまと近世の天文 -稲垣田龍が見た夜空-」 展示Web解説 その3

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第48回特別展「さいたまと近世の天文 -稲垣田龍が見た夜空-」 展示Web解説 その3

令和6年10月5日から11月24日まで開催していた、第48回特別展「さいたまと近世の天文 -稲垣田龍が見た夜空-」の展示を紹介します。

3. 稲垣田龍の世界(後編)

天文学と暦学

稲垣田龍関係資料の中には暦学関連の資料も多く残されています。
その1でも述べたとおり、天文学と暦学は切っても切れない関係にあり、合わせて「天文暦学」と呼ぶことがあります。
天保13年(1842)には「壬寅七曜暦」を作成していますが、日付けの下に干支・七曜・二十八宿などが記入されており、田龍が日常的に使っていたとされています。
天体の位置を示す専門家用の天文暦であり、田龍の天文暦学の知識が相当の水準に到達していたことがわかります。
 
興味深い資料の一つに、「熱海温泉考」というものがあります。
月の満ち欠けと十二支を対応させ、陰と陽のバランスが崩れたときに温泉が沸き、陰と陽のバランスが取れていたり(=半月)、陰のみ(=新月)、陽のみ(=満月)になったときは温泉が沸かないといった趣旨が書かれています。
「沸」には「沸騰する」意味と「湧き出る」意味があり、ここで示しているのはどちらの意味かわかりませんが、月齢と温泉の具合に関係性があると考えていたことはわかります。
実際、月の引力による潮の満ち引きと温泉の湧出量や泉温との間には、熱海温泉や別府温泉での観測記録から関係があることがわかっています。
別府温泉地球博物館のホームページに詳しい解説があります)
「熱海温泉考」で考えられていたような関係ではなかったにせよ、月の満ち欠けと温泉との間に関係があることが当時認識されていたことに驚きます。
 
熱海温泉考
熱海温泉考
年不詳 個人蔵・さいたま市アーカイブズセンター寄託
市指定有形文化財

地動説と日本

貞享(じょうきょう)2年(1685)の「貞享の改暦」以降、日本における天文学は有識者の間で広まっていきましたが、一方で1543年にコペルニクスによって唱えられた、地球を含めたすべての惑星が太陽の周りを回っているとする「地動説」は、まだ日本に伝わってきていませんでした。
地動説が日本に伝来したのは、髙橋至時(たかはしよしとき)(1764~1804)や間重富(はざましげとみ)(1756~1816)によって寛政10年(1798)に行われた「寛政の改暦」前後のことです。
長崎の通詞(通訳)であった本木良永(もときよしなが)(1735~1794)が、蘭書(オランダ語の書物)を翻訳した『太陽窮理了解説』(1792)で太陽を中心とした太陽系を紹介しています。

古代から天動説が信じられてきた西洋では、受け入れがたく抵抗されてきた地動説ですが、日本では大きな問題になることはありませんでした。
なぜなら日本における天文学とは主に暦を作るためのものであり、観測上の違いが無ければ問題にならず、軌道の中心が太陽でも地球でもさしたる違いがなかったからです。

地動説の紹介
地動説の紹介 ※写真は一部
天保5年(1834) 個人蔵・さいたま市アーカイブズセンター寄託

稲垣田龍関係資料の「地動説の紹介」は、天文暦学者・吉雄俊蔵(よしおしゅんぞう)(1787~1843)が文政6年(1823)に著した『遠西観象図説(えんせいかんしょうずせつ)』の付録にある「地動惑問」中の4組の問答を筆写したものです。
文中には「夫レ地球ハ五星ノ属ニシテ、金火二星ノ間ニアリ、五星悉ク太陽ヲ心トシテ旋回スルニ何ゾ地球特(ヒト)リ不動ニシテ、太陽五星ヲ卒(ヒキ)ヒテコレヲ旋回スルノ理(コトワリ)アラン」とあり、地球が金星と火星の間にあり、太陽の周りを旋回していることを説明しています。

「地転新図附属天文図」では、太陽を中心に、水星、金星、地球、火星、木星、土星の軌道が描かれており、それぞれの公転周期や自転周期が記載されています。
また彗星の軌道も描かれており、当時最先端だった地動説に基づいて作成されています。
この天文図には金星に存在しないはずの衛星が描かれており、金星の衛星が存在するか否か、当時の学者の間で論争になっていたことを反映しており、「周期距離不詳」と書かれています。
最先端である地動説をいち早く取り入れ、地元の与野で広めた田龍の想いが垣間見えます。

地転新図附属天文図
地転新図附属天文図
弘化(こうか)3年(1846)
個人蔵・さいたま市アーカイブズセンター寄託 市指定有形文化財
※与野郷土資料館で常設展示されています

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