ページの本文です。
更新日付:2025年6月1日 / ページ番号:C120747
令和7年3月8日から6月1日まで開催した、第36回企画展「地図で見るさいたまの近代」 の展示内容を紹介しています。その2はこちらです。
土地や、その土地で収穫できる作物から税を徴収することは、律令制度が導入された奈良時代から行われてきました。戦国時代の末からは、土地の実地検分である「検地」が、その土地を支配する領主によってたびたび行われ、毎年納める「年貢」の額が定められました。
明治5年(1872)、政府は、それまで禁止していた土地の売買を解禁し、翌年には「地租改正法」(ちそかいせいほう)を公布しました。地租改正では、土地の私有や売買を公式に認めた上で、これまでは耕作者が収めるとしていた租税(そぜい)を、土地の所有者が納めることとし、その額の計算方法も、収穫量による方法から、土地の価格による方法に改め、それまでは領主により異なっていた税率も統一しました。土地の所有者には、その土地の地番と面積、価格を記載した「地券」を発行して、納税者を管理することにしました。
この地租改正を行うためには、土地を一区画ごとに測量し、管理のためにその台帳と位置を示す地図を作る必要があります。政府が全国でこれを行うことは難しく、測量や地図の作成は村ごとに住民が自ら行うことになりました。
(右上)測量に使用する道具を説明した『算法地方大成』(天保8年(1837))
地租改正のために行われた土地の一区画ごとの調査と測量は、江戸時代の検地と同様に「地押」(じおし)と呼ばれました。当時は計算機や精密な測量機器なども無いため、近代的な三角測量の方法を使うことは難しく、江戸時代からの「間竿」(けんざお)「間縄」(けんなわ)などの道具を使い、簡易な「十字法」(じゅうじほう)、「三斜法」(さんしゃほう)などの方法で測量が行われました。また、土地の面積が納税額にかかわるため、旧来の検地帳と同じ面積になるようにしたり、わざと面積を少なめに測ることも一部で行われていたようです。
地押の成果は、村ごとに、土地の台帳である「地引帳」(じびきちょう)、位置を示す地図である「地引図」(じびきず)にまとめられました。地引図はその縮尺と範囲によって、「一字限図」、「一村限図」など複数のものが作られることもありました。各地の村々では、手引書などを元に測量を行ってこれらの地図と資料を制作し、各府県の担当官に提出して検査を受け、府県は土地の所有者に地券を発行しました。埼玉県では、本格的な測量は明治8年(1875)頃から始められ、明治11年(1878)にほぼ完了しました。
(右)測量に使われた間縄(けんなわ)
(個人蔵、埼玉県立文書館寄託)
地券(表面・裏面)
県に提出された反別帳に基づき、土地の所有者には、公的な証明書としてその内容が書かれた地券が交付されました。
土地の登記制度が始まるまで、土地の権利を証明する重要な書類でした。
国税庁税務大学校「租税資料ライブラリー」にも関連資料が掲載されています。
(左)三斜法による面積の測量 国立国会図書館デジタルコレクション『土地丈量取調者必携』より
(右)十字法による面積の測量 国立国会図書館デジタルコレクション『勧農固本録2巻』より
大和田村は現在の見沼区大和田町付近にあたります。村内の小字ごとにつくられた地引図と、それぞれの土地の地目や面積、価格、所有者などをまとめたものがつくられ、県に提出されました。この資料は提出用とは別に作られ、村に保管されていたものです。広げて展示している地引図は大和田村の字「前久保」のもので、現在の大和田町一丁目の東の端にあたります。
砂村切絵図(すなむらきりえず)
砂村は現在の見沼区東大宮1~3丁目と砂町付近にあたります。この地図は、地租改正の際につくられたものを使い、明治18年(1885)に開通する日本鉄道線(現在のJR宇都宮線)の工事予定地を表すために作られたものとみられます。
税制のために作成された地券と台帳、地図は、土地の登記制度が明治20年(1887)に始まると、その資料として登記所に移管されました。地図は「公図」と呼ばれ、その土地の形を示す公式な資料として使われるようになりました。
しかし、この「公図」は、先にも取り上げたとおり、正確な測量方法で作られたものではないため、実際の土地の形や面積と異なっている場合もあって、次第に様々な問題が生じるようになりました。解決するためには、現地で関係者の立ち合いのもと、土地の境界線を確定し、測量し直して正確な地図を作る必要があります。この作業は「地籍調査」と呼ばれ、政府は昭和26年(1951)から、全国の市町村を通じて実施していますが、全国の進捗状況は令和5年度末で53%となっており、まだまだ未整備の地域が多い状況です。地籍調査事業について、詳しくは国土交通省「地籍調査ウェブサイト」などをご覧ください。
(右)地籍調査による地籍図の整備
国土交通省パンフレット『地籍調査はなぜ必要か』より
(国土交通省「地籍調査ウェブサイト」に掲載)
教育委員会事務局/生涯学習部/博物館
電話番号:048-644-2322 ファックス:048-644-2313