「好き」を仕事に
悩む時間はもったいない。一歩踏み出し、「好き」を仕事に
屋冨祖 和也(やふそ かずや)さん
さいたま市出身。大学卒業後、フランスでの修行、国内ホテルでのスーシェフ(二番手)経験を経て、2023年独立。地元さいたま市に洋菓子店「ANCiPiT(アンシピット)」をオープン。
「やりたいこと」を見つける模索期
20歳の頃は、大学生活を送っていました。勉強は、英語が好きだったのと留学に興味があったので、夏休みを利用してホームステイをしたりして過ごしていました 。それ以外はバイトや遊んでばかりで、特に将来を考えずに楽しく過ごしていましたね。同級生が就活を始めた大学3年の頃 、「自分はどうしようかな」と漠然と考え始めました 。
興味があることなら良いのですが、ただ、お給料や会社の福利厚生で、仕事の選択をするのは嫌だな、というのが自分のなかであったんです。それで、趣味だったお菓子作りを仕事にしようかなと考え始めました。
高校時代に甘いものが好きで、親が焼いていたパウンドケーキなどを真似して作って、友人に喜んでもらうのが嬉しかったこともきっかけです。製菓の専門学校への進学も考えましたが、「専門学校に行くと、その後の選択がその道だけになってしまう」という不安もあったので 、大学の単位がほとんど終わっていた4年生の時に、まずパティシエのアルバイトを1年間しました 。そこで先輩の話を聞いて、フランスを知り「行ってみたいな」という憧れが芽生えて、ワーキングホリデーでフランスに行くことにしたんです。
「悩んでいるよりは行動した方が早い」という気持ちが、私を一歩踏み出させてくれました。
フランスでの修行と帰国後の成長
大学卒業後すぐにワーキングホリデーでフランスに渡りました。地方のパティスリーに住み込みで1年間働いたのですが、フランス語は独学でしたので、言葉の機微まで理解するのが難しく、沢山怒られました(笑)。見様見真似でしか覚えられなかったので、徐々に「このままここにいても、これ以上得られないかもしれない」という思いに至り、帰国をして基礎から学び直すことを選択しました。
でも、このフランスでの経験が、結果的に今の自分を形作る大きな財産になっています。仕事の道としてもそうですが、一人で異国の地に身を置いたことで、周りの人のありがたみや、家族への感謝の気持ちに気づくことができたんです。
日本ではいくつかの店舗勤務を経て、最後はホテルで8年間勤務し、スーシェフ(2番手)まで昇りつめることができました。この修行期間に「35歳から40歳の間で独立する」という目標を定め、逆算して技術や資金の準備を始めました。独立に関しては、ちょうど良い物件が見つかって、準備資金への不安はありましたが、それよりも「やりたい気持ち」が強かったです。そして何より、「やらないで後悔したくない」という強い思いが、自分の行動を後押ししてくれました。この経験と行動力が、現在の独立という夢の実現へと繋がったと思います。
地域に根差した自分らしい生き方
現在は、洋菓子店「ANCiPiT(アンシピット)」のオーナーシェフとして、製造、商品開発、経営まで全てを自分でやっています 。大変なこともありますが、「美味しかった」というお客様からの手紙やお声 、そして自分のイメージ通りのケーキが完成した時の達成感は、何よりのやりがいです。私にとって仕事は「趣味が仕事」のようなもの。だから苦ではなく、フランスで得た感謝の気持ちやこれまでの経験すべてが、ケーキを作り続ける原動力になっています。
お店を構えたのは、私が生まれ育ち、住み慣れているさいたま市以外は考えられませんでした。住みやすいですし、都心へのアクセスも良い。さらに子育てを考えた上でも最適な環境なので。今後は大きく店舗を広げるというよりは、この地域でしっかり根付いて、「ANCiPiT」らしさを大切にしながら自分も進化し続けたいです。
生活は「ワーク」が中心になっていますが 、パティシエになりたいと言う子どもたちに「背中」 を見せることができているのは嬉しいですね。また、ケーキの味については、自分の中のバランス(味覚の軸) を大切にし、作品のデザインは家族のアドバイスも経て完成させています。独立という目標を達成した今も、家族や地域からの支えを感じながら、仕事への情熱を追求し続けています。
これから選択や就職を控えた方へのメッセージ
悩む時間はもったいないです 。時間は有限なので、やりたいと思ったことは、失敗を恐れず一歩踏み出してみてください。若い頃の経験と行動力が、必ずあなたの人生を大きく開いてくれます。


